2010年01月03日

【映画】カッコーの巣の上で

とても考えさせる映画でした。内容はWikipedia(ネタバレあり)
75年アカデミー賞作品賞受賞作ですが、管理主義的な病院側から自由を勝ち取ろうとする、ジャック・ニコルソン演じるマクマーフィーと入院患者の物語です。世間では感動作とか名作と呼ばれていますが、私が観た限りこれはある意味問題作かもしれないとも思いました。私の場合も、患者側の視点からこの映画を見ましたが、より当事者目線で観てもよくできている映画です。

まあ、映画の中でマクマーフィーが度々反抗を繰り返すのですが、あれほどの乱痴気騒ぎとは現実ではありえないものの、精神病院の体質というか管理主義的なものは、現在の日本でも同じようなものではないでしょうか、一部の先進的な病院もあるでしょうが、地方都市の郊外に点在するような旧来の精神病院だと、この映画の病棟風景がそのまま残っていると思います。医師や看護師についても、同じようなことが言えます。精神科の看護師というのは、半数か半数以上が男性看護師で、その中でも数人は屈強な男性だったりします。そういう現在でも今の病院と少なからず変わらない点など、興味深く観ました。

今度は患者のほうに視点を変えてみると、マクマーフィーほどの患者がそうそういないとしても、一部のマクマーフィーのような反抗的な患者に扇動されるような、素直な患者も実際そういないだろうと思います。実際の精神病棟は、管理的な病院側に不満を持つこともあるでしょうが、そんなことより色んな病気や症状、また精神病質の患者さんがいるため、患者同士のつきあいこそが大変だったりするところもあります。

内容では管理側の病院対マクマーフィーと患者という対比(対立)で描かれていますが、まあそれは前述のように、管理側にも患者側にも色々と問題を抱えた部分がありますから、実際はそうはならないにしろ、この映画では話の筋を分かりやすくするための二項対立として描かれています。そのため、毎日の日課や、定時の薬、また決まった行動など、管理される患者はまるで生気を失っているように描かれているのに対し、マクマーフィーが起こす騒動には活き活きとして目を輝かせています。まさにこれも分かりやすい演出というか、患者が病院側の意図に反するほど活き活きとすることで、病院との対立軸がはっきりしてくるのでしょう。

そして何より、病院側が意図的にマクマーフィーを強制入院として、退院できなくしてしまうという、ある意味病院側の横暴も描かれることで、この対立軸をさらに浮き立たせることになります。さらに患者が反抗するたび、全編を通して笑みすら浮かべない冷静で無表情の看護婦長(中年白人女性)と、そして腕力で言いなりにしようとする男性看護師の多くをアフリカ系アメリカ人が演じています。実際のアメリカの精神病棟にもアフリカ系アメリカ人はいるでしょうが、マクマーフィーとそういったアフリカ系アメリカ人が殴りあいをし、マクマーフィーが取り押さえられるシーンなどは、アメリカの人種意識を刺激し、より対立軸を鮮明にするだろうと深読みしてしまいます。

またこの映画の衝撃性を際立たせるのは、結末のマクマーフィーのロボトミー手術でしょう。これもWikipediaによると以下の通りです。

「1935年、ジョン・フルトンとカーライル・ヤコブセンがチンパンジーにおいて前頭葉切断を行ったところ、性格が穏やかになったと報告したのを受け、同年、ポルトガルの神経科医エガス・モニスがリスボン大学で外科医のアルメイダ・リマと組んで、初めてヒトにおいて前頭葉切裁術(前頭葉を脳のその他の部分から切り離す手術)を行った。その後、1936年9月14日ワシントンDCのジェームズ・ワシントン大学でも、ウォルター・フリーマン博士の手によって、米国で初めてロボトミー手術が激越性うつ病患者(63歳の女性)におこなわれた。世界各地で追試され、成功例も含まれたが、特に、うつ病の患者の6%は手術から生還することはなかった。また、生還したとしても、しばしばてんかん発作、人格変化、無気力、抑制の欠如、衝動性などの重大かつ不可逆的な副作用が起こっていた。

しかし、アメリカのW.フリーマンとJ.W.ワッツにより術式が“発展”されたこともあり、難治性の精神疾患患者に対して熱心に施術された。1949年にはモニスにノーベル生理学・医学賞が与えられ、1952年には教皇ピオ12世も容認発言をしたほどであった。しかし、その後、抗精神病薬が発明されたことと、ロボトミーの副作用の大きさとあいまって行われなくなった。また、エガス・モニスもロボトミー手術を行った患者に銃撃され重傷を負った。現在は精神疾患に対してロボトミーを行うことは禁止されている。」


とのことで、この手術は今でこそ禁止されているものの、日本でも実際行われていたし、当時ではロボトミーが精神医学界で推奨されていたようです。

中盤で出てくる電気ショック療法については、この映画に描かれているものは、主に制裁の意味合いが強い電気ショック療法でしたが、現在では麻酔科医の同伴など一定の基準を満たした治療を行うことで、一定の効果があるとも言われますが、これも現在では多くの議論がなされています。

冒頭に書いたように、私にはこの映画に感動はしなかったものの、実際の精神病棟の内実をなぞるような展開は、少し背筋が凍るような思いがしました。今こそ、ロボトミーや制裁的な電気ショックこそありませんが、実際当時の体験談を見聞きすると、映画で描かれた病院の様子がそのまま当時の病院の状況であったともいえるし、現在でも管理主義的な隔離収容を主とした病院も存在するなか、この映画は現在でも精神医療の世界の歪みを浮き彫りにしているような内容だと思いました。

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posted by hermit at 18:05 | Comment(2) | 映像・音楽
この記事へのコメント
 好みの本、好みの映画がたくさんこのブログで取りあげられていますね。
 この映画、上映されたときに見て、ちょうど春闘かなにかのデモ行進の最中に同僚と話していたら同僚も見ていて、互いに感想を喋りあっているうちに終点に着いた、という記憶があります。
 その後ビデオでも見て、感銘を新たにしました。
 心理学の研修で精神病院へ行ったときは、もうロボトミーも電気ショックも使われていませんでしたが、戦後まもないころは日本でもやっていたのですね。
 この映画、管理社会がテーマなので、ロボトミーや電気ショックが廃された今でもリアリティがあります。
Posted by 風紋 at 2010年02月24日 16:35
風紋さん、ども
コメントありがとうございます。

春闘の最中ですか、、それはまた大変な時に見られたんですね。この映画はもちろん管理社会がメインテーマですが、人間ドラマとしても精神医療などについても深く考えさせる映画でしたね。ロボトミーという脳の手術があったということは、今知っても愕然とします。電気ショックについては、この映画で行われていたものとは、今は意味合いが違うようで、医療的に見直されているむきもあるようですよ。
Posted by hermit at 2010年02月24日 18:32
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