2009年08月07日

真日本タブー事件史

タイトルからしてアングラの世界を覗いた気分です。本書は別冊宝島のタイトルとして文庫出版されたものです。ざっと目次をあげて紹介してみます。

第1章事件の暗部
ここはかつての猟奇事件から未解決事件まで、謎やタブーとされる事件が紹介されています。事件によっては記者の独自取材もあり、なかなか切り込んでいました。金丸信狙撃事件実行犯のインタビューはもとより、なるほどと思ったのは和歌山カレー事件についてです。この事件ではかねてから動機がはっきりしないことや、目撃証言が曖昧なことにより容疑者の冤罪が取りざたされていましたが、読めばなるほどと思うこともあります。まず容疑者夫婦の事実上の共犯と思わしき人物が検察側の証人として証言していること、さらに記者が取材を進めるうちに警察のある思惑というかそういうものも感じさせます。まず一連の保険金詐欺が事実としてカレー事件との整合性が取れないことなどもあります。周到な保険金詐欺をはたらきながら容疑者に足のつきやすいヒ素を使ってカレーに毒を混ぜるなどということがいまいち理解できません。容疑者夫婦はシロアリ駆除業をしており調べればヒ素から容疑者にたどりつきやすく、触れられたくない保険金詐欺まで勘ぐられてしまうというものだと記者は書きます。そういう意味でも動機がいまいちはっきりしない事件だということが分かります。現在容疑者には死刑が確定したものの、いまだ動機など謎とされた部分は解明されていないのが現状です。

和歌山毒物カレー事件『ウィキペディア(Wikipedia)』

第2章メディアの裏側
この章では皇室ポルノ事件などをめぐる出版差し止め事件のあらましなどや、昨今の女子アナをめぐる現状などもありました。なるほど女子アナの世界にも社会のドロドロとした大人の常識があるのだなと。さらにこの章で注目なのは地デジに関する記事。すでにあと数年で地デジ完全移行といわれるさなか、その裏で国による多大な税金の投入はご存知でしょうか。記者が書くにはそもそも地デジというものは現在のインフラ(ネットやケーブル)でもこと足りるものなのだそうですが、そこはいわゆる電波利権というのがちらほら見え隠れします。放送局(キー局と地方局)そして国の思惑が入り乱れ、そこには国民が知らぬ間に膨大な税の投入があるのです。放送局とりわけ地方局にすれば昨今の不況も相まって地デジの整備など到底自局の予算でまかなえるものでなく、どうにか国から予算を引き出させ、国にいたっては将来的な全国の放送網や放送局の再編もにらんでのことと記者は書きます。国民(視聴者)が知らぬ間にはじまった地デジ移行ですが、思わぬところで国民につけがまわってくるのかもしれません。

第3章暴走する性
この章はまさにアングラの世界です児童ポルノ問題から海賊版DVD問題などが取り上げられています。性が氾濫し低年齢化するなか、赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を通して人工妊娠中絶問題についても取り上げられており、まさに現代の病理を見せられるようでした。

第4章業界「闇」の地図
最後は非合法活動や野球(球団)などの業界のタブーを紹介したものでしたが、ここで読ませるのは製薬業界についてです。製薬業界と病院また医師の癒着のこと。それは今に始まったことではありませんが、この業界のそういった部分を某製薬会社のタミフルを通して迫っています。そもそも記者が書くにはタミフルの効果とはインフルエンザ罹患期間を2日ほど早める程度とか。しかし、タミフルの効果が盛んに取り上げられるなか、この薬自体にも副作用や薬害があることはあまりに注目されていません。パンデミックに対する危機感が高まるなかタミフルがこれに対してどれだけ効果があるかも、日本はおろか海外にもデータはなく、世界も日本のタミフル治療に注意を向けているほどだといいます。

以上、簡単に書きましたが総じて少々刺激的なテーマが並ぶ内容の本書ですが、文章自体は少々重いもののこの種としてはすらすら読めました。それとなるほど日本にはまだまだいくつものタブーや謎が残っているのだなと実感させられます。日本の社会制度というか閉塞感というかそういうものをタブー事件とともに感じました。恐らくタブーはこれからも触れられないからこそタブーなのでしょうから、これらの謎はいまだ深まるばかりなのでしょう。そしてタブー事件ともいえるこれらの事象は、昨今の日本においてなお起こりうることなのかもしれません。

真日本タブー事件史 (宝島SUGOI文庫)
真日本タブー事件史 (宝島SUGOI文庫)別冊宝島編集部

宝島社 2008-05-20
売り上げランキング : 134090

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
日本を牛耳る巨大組織の虚と実 (宝島SUGOI文庫)
ニッポンの黒幕 (宝島SUGOI文庫 A へ 1-5)
日本の右翼と左翼 (宝島SUGOI文庫)
日本タブー事件史3 (別冊宝島 1525 ノンフィクション)
ヤクザから狂犬とよばれた男 (宝島SUGOI文庫)


web拍手

posted by hermit at 15:23 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)

2009年08月05日

北芝健「治安崩壊」

いつもそうなのだけれど、北芝健さんの本を読むと、なぜここまで正義感がみなぎってくるのだろう。それに街角の交番に立つ警察官の皆さんが、まるで正義のヒーローのように思えてきます。


この本を読むと、警察官が勧善懲悪のスーパーヒーローに思えてきます。たった一人で暴走族の群に立ち向かい、卑劣なレイプ犯を叩きのめす。北芝さんのような警官は、現実には少ないのだろうけど、こんな頼もしい警官がもっといたら、日本の正義はもっと揺るぎないものになるのになあと思ってしまいます。


北芝さんは、元警視庁刑事の経験だけではなく、公安にも所属していたし、社会病理学者として、現在は大学の助教授として教鞭をとっておられます。


それだけに、現役時代に遭遇した数々の大事件についても明かされています。古くは「帝銀事件」から「世田谷一家惨殺事件」「女子高生コンクリート詰め殺人事件」など、詳細までは明かされていませんが、司法当局側の人間からしか知りえない情報が載せられています。


中でも驚きなのは、東京都足立区綾瀬で起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」でしょうか。


著者は事件を知る読者と同様、この事件の不条理性そして、人間とは思えぬ所業に激憤を覚えながらこの少年犯罪と司法の問題点を解説します。


この事件は、たくさんの残虐な事件を見てきた北芝さんでも驚き動揺を隠せなかった事件なんだそうです。


もちろん、北芝さんは身近な警察に対しても筆を緩めません。国民から税金で雇われた警察は社会悪に敢然と立ち向かうべきなところを、不祥事や汚職にまみれている最近の警察のふがいなさについても怒りの手を休めません。


しかし、北芝さんは常に現場の警察官の立場から書いておられます。3日に1度は24時間勤務というハードスケジュールであっても報酬は微々たるものだという、現場の警察官の苦労を分かりつつ、警察の頂点に君臨する500人のキャリア警察官僚への待遇改善を提言します。


総じて、その全身からあふれる正義感そして社会悪にたいする怒りは、読者を巻き込んで痛快すらあります。この本の趣旨は防犯なので、具体的にオヤジ狩りやレイプなどの性犯罪、空き巣や強盗といったものから身を守ることに重点がおかれています。単なる護身術の類などではなく、か弱い女性でもできる防犯対策また、犯罪に巻き込まれてしまった場合の対処法など、具体的に解説されています。


要約すれば、犯罪に巻き込まれないためには、油断しないこと。女性ならば、油断して夜道の暗がりなどを歩かないことなんだそうです。夜にひと気の少ない公園などを近道した場合、約9割の確実で犯罪に巻き込まれたりするそうです。


ほとんどの人は事件が起こると、被害者に対して運が悪かったと想いがちですが、実際のところ現在の日本の治安は、我々一般人のほうこそ、「運がよかった」と考えたほうがいいんだそうです。


外国人マフィア、少年グループによるレイプやオヤジ狩り、性犯罪者による子どもへの被害、そしてメディアや市民の反発で動きをとれない警察。そんな悪循環が、治安を悪化させていると書いています。


冒頭から最後まで、北芝節が続く本書。読んだら一気に読了してしまうほどの内容でした。

治安崩壊──凶悪犯罪社会を生き抜くために知るべきこと
治安崩壊──凶悪犯罪社会を生き抜くために知るべきこと
河出書房新社 2005-01-21
売り上げランキング : 306912

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
ニッポン非合法地帯
警察裏物語
日本警察 裏のウラと深い闇 (だいわ文庫)
警察の裏事情―誰も書かなかった警官の本音とタテマエ (幻冬舎文庫)
ニッポン犯罪狂時代

web拍手

posted by hermit at 06:30 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)

2009年01月06日

ニッポン非合法地帯

やっぱりこの本でも北芝さんのビッグマウスが炸裂してます。この本の趣旨を簡単に説明すれば、ケンカ・セックス・金、の3つです。確かに警察の裏事情とか組織犯罪の手口や卑劣さを解説もしてあるんですけど、話が進むにつれ北芝さんの筆致もヒートアップしていくのが読んでいてよく分かります。

とにかく話が前後しますが、セックスとケンカの話が好きなんだね北芝さん。筆がのってるのってる、セックスの場面では相手の女性の描写から、いかに自分が絶倫なのかを、これでもかこれでもかってくらいしつこく書くし、ヤクザとの乱闘の場面でもこと細かく、どこを殴って、ここで一発おみまいして・・・とか空手や拳法の技の名前まで出して説明してくれてます。

ただ冗談半分に読めなかったのは、私刑の場面でした、簡単に言えば強姦や不起訴となった犯罪者に対しての復讐のことです。警察内での私刑と同じく歌舞伎町に行けば簡単に殺人を請け負うチャイニーズマフィアまで、今や人の命がお金で簡単に買える時代になったことがうかがえます。

4594058493ニッポン非合法地帯 (扶桑社文庫)
北芝 健

扶桑社 2008-12
売り上げランキング : 223053

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
web拍手

posted by hermit at 11:37 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)

実録!女子刑務所のヒミツ 出所したばかりの元女囚が明かす!

詐欺罪で懲役1年の実刑判決を受けた著者の体験が書かれています。女子刑務所という所は数その物が少ない事から、殺人犯から万引きの常習犯まで色んな服役者が同じ雑居房で生活を共にしているといいます。

著者は語っています。刑務所の中とは、反省や贖罪をうながし、更正するための施設だと思われがちだが、実際は囚人同士や看守との人間関係、毎日8時間の刑務作業に追われる毎日で反省どころでは無いのだと

。さらに囚人には1級から4級までの累進処遇があり、待遇に大きな違いがある為、あの手この手で処遇を上げようと必死で看守に取り入ろうとしたり、模範囚であろうとしているのだそうです。

当然女だけの世界、陰湿ないじめや、けんかもあってその中でいかにして人間関係を円滑にし囚人同士のいじめの標的にならず、どうやって看守のいじめに耐え抜いたかが書かれてあります。

実録!女子刑務所のヒミツ―出所したばかりの元女囚が明かす!
実録!女子刑務所のヒミツ―出所したばかりの元女囚が明かす!
北沢 あずさ

関連商品
獄中生活15年の元受刑者が明かす実録!刑務所のヒミツ
刑務所の中
実録!女子刑務所のヒミツ―出所したばかりの元女囚が明かす! (二見文庫―二見WAi WAi文庫)
刑務所の中のごはん
女子刑務所にようこそ―日米刑務所入獄記
by G-Tools
web拍手

posted by hermit at 11:34 | Comment(2) | 事件・犯罪(本)

実録!少年院・少年刑務所 世間をアッといわせる意外な実態

センセーショナルなタイトルに、表紙には入ったら二度と出られなさそうな重々しい少年刑務所の扉の写真!これだけ見るとなんだか恐怖と暴力に支配された、おどろおどろしく興味本位に書かれた本かと思ってしまいましたが、この本はいたってまじめに書かれています。

なにしろこの著者は刑務官舎で生まれ、その後数々の刑務所に刑務官として歴任されている方だからです。近頃の少年犯罪のニュースで普段から少年院とは?少年刑務所とは?と思っている人にはオススメです。

ニュースでやってたあの少年はどんなプロセスで、どうなっているの?と疑問を持っているみなさんには、丁寧に逮捕から裁判に至り少年刑務所での更正教育までをだいたいの事くらいまで知ることが出来ると思います。

長年刑務官をしていた著者だからこそ知りえた少年達のエピソードには意外な少年達の素顔や、少年達を取り巻く社会の現実など考えさせられました。

実録!少年院・少年刑務所―世間をアッといわせる意外な実態 (二見文庫―二見WAi WAi文庫)
実録!少年院・少年刑務所―世間をアッといわせる意外な実態 (二見文庫―二見WAi WAi文庫)
坂本 敏夫

関連商品
女子少年院 (角川oneテーマ21 (C-72))
心からのごめんなさいへ −一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦−
実録!女子刑務所のヒミツ―出所したばかりの元女囚が明かす! (二見文庫―二見WAi WAi文庫)
関係性のなかの非行少年―更生保護施設のエスノグラフィーから
少年裁判官ノオト
by G-Tools
web拍手

posted by hermit at 11:31 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)

2009年01月03日

阿蘇山大噴火「裁判狂時代〜喜劇の法廷★傍聴記」

趣味は裁判傍聴、そして宗教巡り、坊主頭に胸まで伸びる無精ひげ、男ながらにいつもスカートを着用し、家を持たない自由人だという著者、実は大川興業の芸人さんなのです。しかし、この風貌から裁判所ではいつも厳しいチェックを受けるという、一見傍聴者だとは思えない著者の笑える裁判傍聴記です。

ある時、大川総裁により「おまえは坊主頭だから傍聴しといたほうがいいだろう」というひょんな一言により、裁判傍聴生活が始まった著者。芸人さんらしく、重箱の隅をつつくような細かい法廷ネタが満載の1冊です。

著者の傍聴スタンスとしては、まず殺人や強姦といったエグイ裁判は有名裁判以外、ほとんど傍聴しないんだそうです。ではどのような裁判を傍聴するのか、それは、ダメ人間、懲りない人たちばかりの、ある種悲哀と皮肉が混じったような、人間味溢れる味わいのある裁判です。

世の中には、傍聴サークルなどというものが、全国各地にあるようで、有名どころでは、霞ヶ関倶楽部や霞っ子クラブなどが挙げられますが、霞ヶ関倶楽部のように、量刑を推測して楽しむものでもなく、霞っ子クラブのように、法廷を覗き見趣味の笑いのタネにしているわけでもなく、ただただ著者は、法廷での人間模様に焦点を合わせます。

それゆえに、裁判の判決などは傍聴しないことがほとんどで、主に冒頭陳述や被告人質問などです。この本では、著者が面白かったと思う裁判の場面などが著者の突っ込みを交えながら紹介されています。

ざっと内容を列挙すると、石原邸に空き巣に入ったこともある、自称石原裕次郎の弟。懲りない放火魔。わいせつDVD販売者や痴漢・セクハラ犯に対して、裁判そっちのけに興味津々の検察官。裁判なのか茶のみ話なのか、のんびりほっこり「寝覚めの悪いことです」が口癖のおじいさん窃盗犯。氏名不詳の外国人売春婦。痴漢に激昂する正義感溢れる検察官。

読み物としては、著者の趣味である宗教巡りのひとつとして潜入した、法の華三法行の抱腹絶倒の天行力大祭、また福永法源による“最高”に笑えるマイクパフォーマンス。そして法の華裁判でのトンチンカンなやりとり、宗教のカサをかぶった“あちら側”の人たちと、現実社会の検察官のかみ合わない証人尋問。

オウム裁判における脱力ムード。麻原彰晃こと松本智津夫の奇怪な行動そして弁護団の迷走とあきらめ、著者はなんと松本被告に話しかけられるという驚きの出来事も書かれています。

その他にもスーパーフリー裁判における被告人の反省の色さえ見せないやる気のない法廷態度や、裁判長と廷吏の奇妙な関係、サイバン旅行と題した地方の牧歌的でのんびりした裁判も取材しています。著者によると地方の法廷のほうが、検察・弁護人・裁判長ともに、心のこもった暖かい裁判をされるそうです。

さらに古今東西の変わった裁判についても、取材がなされています。長南年恵という女性が、空のコップを一瞬にして満たすことができたという「神の水」をめぐって、明治33年に行われた超能力裁判。かつて日本でも行われていた陪審員制度についてやアンマン軍事法廷まで、裁判に関する笑えて参考になる話題が豊富につまっています。

総じて著者のキャラクター、そしてその視点、緩急のついた笑いのエッセンス。やっぱり法廷というものは、昼ドラもびっくりな人間ドラマの宝庫なのだと実感しました。法廷に立たされる立場にはなりたくないけれど、気軽に傍聴してみたくなるような内容でした。

裁判狂時代-----喜劇の法廷★傍聴記
裁判狂時代-----喜劇の法廷★傍聴記
阿曽山大噴火

関連商品
被告人、前へ。―法廷で初めて話せることもある
B級裁判傍聴記
裁判傍聴マガジン―日本初! (vol.1(2008Spring)) (East Press Nonfiction Special)
気分はもう、裁判長 (よりみちパン!セ)
裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21)
by G-Tools
web拍手

posted by hermit at 14:55 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)

2009年01月02日

反転 闇社会の守護神と呼ばれて

《著  者》  田中森一 著                       

《出 版 社》  幻冬舎 (ISBN:978-4-344-01343-8)

      《価  格》  1,785円(税込)

      《著者紹介》
       
      田中森一(タナカ・モリカズ)

      1943年、長崎県生まれ。岡山大学法文学部
      在学中に司法試験合格。71年、検事任官。
      大阪地検などを経て東京地検特捜部で
      撚糸工連汚職、平和相互銀行不正融資事件、
      三菱重工CB事件などを担当。伝説の辣腕検事
      として名をあげ、87年、弁護士に転身。
      2000年、石橋産業事件をめぐる詐欺容疑で
      東京地検に逮捕、起訴され、三年の実刑判決を受けた。       
 
      《目  次》

      序 章  判決
      第一章  凱旋
      第二章  法の番人へ
      第三章  捜査現場
      第四章  鬼検事の正義
      第五章  転身
      第六章  ヤクザと政治家
      第七章  バブル紳士たちとの甘い生活
      第八章  落とし穴
      終 章  審判
      あとがき


 「田中はやりすぎた。捜査の邪魔だ。逮捕するしかない」
 石油卸商社「石橋産業」(東京)から約179億円の約束手形を
 だまし取ったとして、詐欺罪などに元会社役員、許永中(60)などと
 共に問われた本書の著者、田中森一弁護士。


 かつては東京地検特捜部のエースと呼ばれ、一転ヤメ検となった後は、
 闇社会の守護者として、ヤクザや、バブルの立役者となったバブル紳士や
 様々な相場師、乗っ取り屋、仕手師たちと交際を深め、
 その関わりは当時の大物政治家たちにも広がっていたという、
 まさに「裏」社会の弁護人となった人物の自叙伝です。


 昭和18年、長崎県平戸の漁村に生まれ、定時制高校・予備校夜間部で
 苦学し、大学在学中、司法試験に一発合格します。検事になり、
 大阪・東京地検特捜部などで、佐賀県知事汚職事件
 ・阪大ワープロ汚職事件・文部省ノンキャリ収賄事件・撚糸工連事件・
 平和相互銀行不正融資事件・三菱重工CB事件
 ・福岡県苅田町長公金横領事件などで活躍しやがてアングラ社会に通じ、
 海千山千の犯罪者から「落とし屋」鬼検事として恐れられるように
 なります。


 しかし、平和相互銀行不正融資事件や、三菱重工CB事件など
 手塩にかけた事件が次々と上層部の方針とぶつかり潰され、
 嫌気がさして辞職するのです。


 弁護士に転向してからは、バブル景気に乗った様々な企業や、
 人物たちの弁護を引き受け、7億円のヘリコプターを購入して
 「空飛ぶ弁護士」と揶揄され、豪華マンションを棟ごと購入するなど
 バブルを享受する一方、阿倍晋太郎、竹下登といった大物政治家や、
 山口組五代目組長渡辺芳則、山口組若頭宅見勝、「アイチ」の森下安道、
 「イトマン」元常務の伊藤寿永光、「大阪府民信用組合」の南野洋、
 リゾート開発「アイワグループ」を率いた種子田益夫、
 仕手筋「コスモポリタン」総帥の池田保次、許永中、
 五えんやグループの中岡信栄など、事件の主役たちと付き合い、
 やがて古巣の特捜部の手によって檻の中に落とされてしまうのです。


 検察官時代の著者は前述した通り特捜エースとして数々の事件に取り組み、
 大阪地検時代も通じて、政官業の癒着、それは往々にしてタブーとされる
 問題にも切り込んでいくのです。


 しかし、著者の正義感は、検察庁の捜査方針である体制・国策に
 沿った形でしか発揮できませんでした。数々の事件は政治家の圧力、
 あるいは官僚によるもみ消しによって潰されていくのです。
 その後、これらの政治家とは不思議な縁でつながっていくのですが、
 この時点で政官業そして闇社会とのつながりは、
 決して明かしてはならないタブー中のタブーだったのです。


 これは検察・警察どちらにも当てはまる話ですが、
 公権力の立場からであっても、1度闇社会と関わってしまえば、
 闇に取り込まれることがあります。著者の場合、鬼検事と言われていても、
 闇社会からは不思議な信頼を持たれ、協力者も多かったことから、
 裏社会に取り込まれてしまうのです。


 さらに、キャリアとノンキャリの差もあったかもしれません。
 現場からの叩き上げの著者は手柄を横取りするキャリア検事や、
 事件を潰した上司に対する大きな溝があったようです。


 弁護士に転向した著者のもとには、かつて検察側として対峙した、
 被告人たちからの依頼が殺到したそうです。その中には前述した
 ヤクザやバブル紳士も含まれていました。依頼を受けると、
 その依頼人が次々と大手企業の顧問を紹介してくれる。
 著者は瞬く間に、それまでには見たこともないほどの大金を
 手中にすることになるのです。


 そして、著者はヤクザの組長たちの悪の魅力の虜になるのです。
 大手建設会社が手を焼く事業や公共工事を、組長の一声で納めてしまう。
 住民運動や市民の反対運動に困り果てていた地上げを一声で成功させる。
 さらに、全国各地に広がる広域暴力団のトップとしての度量、気配り、
 そんな悪の魅力は著者を虜するには十分でした。


 著者はそんな、闇社会の者たちと政界をつなげるパイプ役でもありました。
 安倍晋太郎が領袖であった「清和会」の顧問弁護士を勤めるかたわら、
 山口組組長ならびに若頭の顧問弁護士も勤めていたというのは、
 それを如実に表すものでしょう。そんな時の権力者たちは、
 本書において実名で公表されています。


 これらの赤裸々な告白と共に、驚嘆させられるのは、
 バブル紳士と呼ばれる仕手師たちの姿でしょう。
 何も無いところから、巨万の富を生み出す鮮やかな手法は、
 貧困や被差別者からのしあがった者だけでしか成しえない迫力と
 底なしの欲望を感じさせます。


 これら仕手師の手法は、現在のライブドア元社長堀江貴文氏や、
 村上ファンド前代表村上世彰氏が行ってきたことと手法は変わらないと
 著者は言います。ただ、バルブ時代にいた仕手師と違って、
 金額も規模も巨大になっただけという著者の指摘は
 興味深いものがあります。


 弁護士としての著者の手法は、検察側の手の内を知り尽くしている
 だけに、やり手弁護士として活躍します。
 しかし、これら闇社会の弁護は次第に特捜の目の仇とされていくのです。
 さらに、検事時代の確執も影響していると著者は言います。


 そしてついに、石油卸商社「石橋産業」(東京)から、
 許永中などと共に、京都市のノンバンクに担保として差し入れた
 建設会社株を引き出すことを計画し、石橋産業に株購入資金名目で
 関連会社の約束手形(計約179億円)を振り出させだまし取ったとして、
 著者は詐欺罪に問われるのです。


 著者は一審において懲役4年の実刑判決、
 2審で懲役3年の実刑判決を受け、最高裁に上告しますが、
 上告棄却の決定がなされ、許被告を懲役6年、
 田中被告を同3年の実刑とした二審・東京高裁判決が確定しました。


 総じて、最高裁上告中に410ページを書き下ろした本書は、
 著者の鬼気迫る迫力を感じます。政官業そして裏社会との
 癒着の描写もさることながら、それはバブル紳士たちの資金調達を
 描いていくプロセスが、実にわかりやすく説明されているところでしょう。
 彼らもまた、バブル崩壊によってその身も崩壊してしまうのですが。


 何より気になったのは政治家山口敏夫でしょう。
 彼は政治家というより政治屋でした。天下国家のためではなく、
 自身の身を肥やすために政治家という肩書きを利用したのです。
 自分の個人的な事業が破綻すると、ヤクザの組長までに頭を下げ、
 そして平気で借金を踏み倒す。頭をペコペコ下げるのは、
 子供でもできますが、山口の場合その姿勢は悪質でした。


 山口にはプライドというものが無いらしく、
 それがどんな人物であっても構わないようで、
 ただ政界の牛若丸とまでいわれた人物だけに立ち回りは早く、
 金の匂いを嗅ぎ付けると無理やりにでも一枚噛んでくる。
 金のためなら土下座して拝み倒し、借りた後はそ知らぬ顔で踏み倒す。


 山口を最期まで見捨てず、借金の尻拭いまでしていた
 「イー・アイ・イー」グループを率いていた高橋治則に対しては、
 その葬式にも姿を現さなかったといいます。
 このような人物に騙された有権者も可哀想ですが、
 このような政治屋が国を滅ぼしていくのだということを
 実感する話でした。


 実刑が確定した著者ですが、本書では、これまでの贖罪と
 過去との決別を表明していました。しかし果たして著者の真意が
 どこにあるかははかりかねます。しかし、著者の自叙伝としての
 彼のそういった言い分を差し引いたとしても、常識外の検察の裏側、
 そして裏社会と政官業の癒着、不正と汚職によって
 ずぶずぶに肥え太った行政など、赤裸々ともいえる記述は、
 まさに闇社会の一端を垣間見せられるような驚くべき内容でした。

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)
反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)
田中 森一

関連商品
正義の正体
自壊する帝国 (新潮文庫)
「成り上がり」の人間学―逆風をパワーに変える「生き方の流儀」
どん底の流儀
国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
by G-Tools
web拍手

posted by hermit at 14:11 | Comment(0) | 事件・犯罪(本)
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ blogram投票ボタン 人気ブログランキングへ
カテゴリ
fx 比較
ブログパーツ